隠された鏡の伝説Ⅰ選ばれし者の定め
「俺は、そいつのところに話をしに行った。俺は盗みやら殺しをやめて欲しいと話したんだ。さっきは、本当にそいつに盗みなんかやめさせたいと思っていた。そんなことは、今まで考えたこともなかったってのに……しかし、そいつは俺を見た途端に挑みかかってきた。そいつの手にナイフが光っているのが見えた。そして、次の瞬間、俺はそいつを刺していた。そいつが倒れたとき、俺は後悔していた。そいつを殺したくなかった。」
男は、唇を震わせて話し続けた。
「俺は、まるで初めて人を殺したときのように、後悔したんだ。そして、うつぶせに倒れているそいつの死体を上に向けると、そいつは…ちきしょう!そいつは…俺だったんだ!」
バルバクリスは吐き出すように言うと、急に顔を背けて黙り込んだ。男の顔からは、あの残忍そうな様子がすっかり消えていた。
ディアナは、黙ってバルバクリスを見つめた。
やがて、バルバクリスが又、口を開いた。
「ガソリンを口に含んで火を噴く芸を見せて金を稼いでいた親父が、それがもとで癌(がん)になって死んだのは、おれが十一歳の時だ。お袋は俺たち十人のガキを抱えて路頭に迷った。お袋は、前に一番下の妹を抱き、背中に下から二番目の弟を背負い、腹にはもう一人赤ん坊が入っている体で、大通りに出て行っては、ジャグラーをして見せて小銭を稼いだ。だけど、俺たち十人の子供たちの腹を満たすほどに稼げた日は、一日たりとも無かった。お袋は自分は食わねえで、俺たち子供に食わせた。そして、無理がたたって、最後の赤ん坊と一緒に死んじまった。俺はピーピー泣く弟や妹を九人、一人で食わせなけりゃならなくなった。俺は、何でもやった。盗めるものは何でも盗んだ。つかまってぶん殴られたり、ぶち込まれたり、ひどい目に合わされたことなんかしょっちゅうだった。したり顔で、子どもくせに、悪に手を染めるのはやめろと、説教を垂れるヤツもいた。でも、俺はそうしなくちゃならなかった。だが、俺がどんなにがんばっても、弟や妹たちは、小さいものから、一人一人弱って死んでいった。俺には…どうすることもできなかった…」
男は、唇を震わせて話し続けた。
「俺は、まるで初めて人を殺したときのように、後悔したんだ。そして、うつぶせに倒れているそいつの死体を上に向けると、そいつは…ちきしょう!そいつは…俺だったんだ!」
バルバクリスは吐き出すように言うと、急に顔を背けて黙り込んだ。男の顔からは、あの残忍そうな様子がすっかり消えていた。
ディアナは、黙ってバルバクリスを見つめた。
やがて、バルバクリスが又、口を開いた。
「ガソリンを口に含んで火を噴く芸を見せて金を稼いでいた親父が、それがもとで癌(がん)になって死んだのは、おれが十一歳の時だ。お袋は俺たち十人のガキを抱えて路頭に迷った。お袋は、前に一番下の妹を抱き、背中に下から二番目の弟を背負い、腹にはもう一人赤ん坊が入っている体で、大通りに出て行っては、ジャグラーをして見せて小銭を稼いだ。だけど、俺たち十人の子供たちの腹を満たすほどに稼げた日は、一日たりとも無かった。お袋は自分は食わねえで、俺たち子供に食わせた。そして、無理がたたって、最後の赤ん坊と一緒に死んじまった。俺はピーピー泣く弟や妹を九人、一人で食わせなけりゃならなくなった。俺は、何でもやった。盗めるものは何でも盗んだ。つかまってぶん殴られたり、ぶち込まれたり、ひどい目に合わされたことなんかしょっちゅうだった。したり顔で、子どもくせに、悪に手を染めるのはやめろと、説教を垂れるヤツもいた。でも、俺はそうしなくちゃならなかった。だが、俺がどんなにがんばっても、弟や妹たちは、小さいものから、一人一人弱って死んでいった。俺には…どうすることもできなかった…」