隠された鏡の伝説Ⅰ選ばれし者の定め
中には、やってきた途端に、どういうわけか立派な息子の自慢話を一時間余りも話し、一体どんな悩みや苦しみを抱えて、ディアナにいやしてもらいたいのか全く解らないような、着飾って、重そうな宝石を体中にくっつけたお金持ちのご婦人もやってきた。

―このご婦人は、ご主人が実はオカマだという秘密があった。

ご主人は外交官で、名士だったため、そのことを隠すためにこのご婦人は、必死になって取り繕ってきたのだった。

ご主人は、家の中では、常にドレスを着て過ごしたがるため、先祖が建てた大きな屋敷に住んでいるのに、使用人を一人も雇うことが出来なかった。

自分のところの使用人が、他の家に雇われている使用人に、主人の秘密を噂して回られるのが怖かったのだ。

主人の仕事柄、客人は多かった。

だからご婦人は、大きな屋敷を一人で掃除し、料理を作り、パーティーを催した。

その上、自分自身の出生の秘密と、また、自慢の種の息子は、ご主人の子供ではないというあまりにも多くの悩みを抱え、家の中では、でんぐり返しをしながらでなければ移動することができないという奇妙な病に苦しめられ、とうとう脳天がすっかり禿げてしまい、いつもかつらをつけて暮らしているという、深刻な悩みを抱えた人だった―

ディアナは、そんな人々を一人ひとり丁寧に、春の訪れを告げるツバメの翼の風を切るような音や、初夏の若木のそよぐような音、滝の流れ落ちる音や、上空でうなりを上げる木枯らしのような音をのどの奥で作り出し、歌にして歌い、いやしていった。

ディアナは人々の話を聞いて、その人たちの求めていることが解ると、歌が自然に口をついて出てくるのだった。

だが、ディアナには、どうしたらその人を楽にさせてあげられるのかが判らないことも、多々あった。

そんな時、肩を落として帰って行く人を見るたびに、ディアナは、自分のふがいなさに腹を立て、もっと力のあるいやし屋に早くなりたい、と、もどかしい思いで考えた。

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