恋する耳たぶ
そんなことを考えていた俺を試すように、バスが大きくカーブした。
とりとめもない考えに入り込んでいた俺は、周りの景色を把握してはいなかったけれど、不意打ちの揺れにもどうにか体勢を崩すことなく対応。
しかし、隣の、寝ている女性はそうもいかない。
体はそれほど動かなかったが、揺れの影響で、ころり、と頭が転がって、こちらを向いた。
まあ、相手が来る分には、俺が責められるべきところはないだろうから、いいだろう。
そっと様子を窺うと、女性は俺の存在にも気づかず、ぐっすりと熟睡しているようだ。
これなら安心だ。
緊張がとけたのか、少し空腹を感じた俺は、コンビニで調達して来たビニール袋の中身を取り出した。
ペットボトルのコーヒーと、小さなものがいくつか入っているパンは、こういう移動の時に便利で、買うことが多い。
さっきみたいに揺れても蓋を閉めておけば中身がこぼれないし、食べかけている途中も、それほど汚くない。
まあ、本当なら、あんこの方が好きだけれど、クリームしか無かったのだから仕方ない。
俺はようやくリラックスして、小さなクリームパンをかじりつつ、手にした本を読み始めた。