恋する耳たぶ
そんな穏やかなひとときをやぶったのは、小さな音。
ぐう。
あきらかな腹の音は、自分のものかと思うほど近かったが、内部からのものではなかった。
寝ていても腹が減るものなのかと隣を見ると、さっきまで寝ていたはずの女性がいつの間にか目を覚まし、マスクから覗いたふっくらした頬を、ほんのりと赤く染めていた。
「…食べます?」
食べかけのパンを差し出したのは、自分でもびっくりするくらいに反射的で。
「お好きじゃないですか?」
そんな風に女性に問いかけた自分に、更に驚いた。
「好き、です」
そう言った彼女の言葉に、なぜか照れてしまった自分が妙に恥ずかしく思えて、眼鏡の縁を指で押し上げる。
差し出したものを引っ込めるわけにもいかずにいると、彼女は戸惑ったようにこちらをうかがい、マスクを下げた。
その口元に少しでも嫌悪感が見えていたのなら、俺も食べかけのパンなんか、すぐにひっこめたことだろう。
けれど、きっと、俺以上に赤くなった顔を見て、一瞬だけれど、他の全てのことが頭から消えた。
…………かわいい!!!!