恋する耳たぶ
「紬未ちゃん!」
そんなバカげたことを考えていたら、私の手元はいつの間にかおろそかになっていたらしい。
匡さんが声をかけてくれた時には、既に傾いていたカップの中から、カフェラテが飛び出すところで。
「きゃっ」
止める間もなくおしゃれなカフェテーブルの上に広がった、甘い茶色の水たまり。
自らの失敗にショックを受けている私よりも先に、匡さんがさっとそれを処理しながら、私に言う。
「かかってない?大丈夫?」
「はい……あっ」
テーブルから落ちた茶色の滝が、白い私のスカートに落ちているのに気づいて、青ざめる私。
目ざとく見つけた匡さんが、お店の人に声をかけ、おしぼりを持って来てくれるように頼んでくれた。
「…………ごめんなさい」
うつむいた私の視界に入るのは、手のひら大の薄茶色のシミがついてしまったスカート。
服に汚れがついてしまったことよりも、失敗した自分のドンくささが悲しい。
せっかくのデートだったのに。
ずっとずっと、楽しみにしてたのに。
匡さんに見とれて、こぼして、後始末までさせて、大丈夫ですか?なんて、お店の人にまで言われちゃって……。