恋する耳たぶ

驚いて、一瞬どうしようと思ったけれど、指が勝手に応答のボタンを押していた。
「はい」
上ずっちゃいそうな声に、つばを飲み込むと、匡さんが微笑んだような気配がした。
『急でごめん。さっき仕事終わったとこでさ……今、大丈夫?』
「あ、はい」

緊張しちゃって、手が少し震えてるけど、これは大丈夫のうちだよね。
『この間、どこか行こうって言っておきながら、連絡もしないでごめんね。ちょっとめんどうな仕事が入っちゃって、しばらく休みが取れなくてさ』
「そう、だったんですね」

そうだったんだ……
先週末も、連絡とかなかったのは、引いちゃったからじゃなかったんだね。

「お仕事、忙しかったんですね……お疲れさまです」
『ありがとう』

スマホの向こうから聞こえる匡さんの声は、ちょっと疲れてるのかな。
この間、会った時とはちょっと違う。

ちょっと……低い?っていうか、なんていうか。
なんだか、声が近くて、耳元でささやかれてるみたいで、ドキドキする。


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