恋する耳たぶ
・踏み出す一歩

「……あ」
夕方の人ごみの中、彼女の姿はそう時間もかからずに見つかった。

濃い色合いのシンプルなコートは仕事用なのか、前回より少し大人っぽい雰囲気。
キョロキョロと辺りを見回しているのは、俺を探しているからだろう。

不覚にも、撃たれたように心臓が跳ねてしまった俺は足を止める。

そして、無機質な街の照明に照らされた横顔を見つめながら、自然と微笑んでいる自分に気づき、改めて思う。

『あー、俺……あの子が好きなんだな……』

思いもしない場所で出会って、思いもしない展開になり、今は彼女と出会う前とは全く違う毎日を送っている。

朝起きて、仕事に行き、夜に帰って来て、寝る……っていう、基本は同じなんだけど。
そういった日常の合間に、ふと、彼女を探したり、彼女のことを思い出したりする時間ができたんだ。

仕事の合間にも、携帯を見る時には彼女からの連絡がないかという思いが頭をかすめてしまうし、会社帰りの電車が彼女が使う駅を通れば、彼女の姿を探してしまう。


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