恋する耳たぶ
私はこういうコンビニのパンじゃなくて、どちらかといえば昔懐かしいお店のパンの方が好きなんだけれど。
彼からもらったクリームパンは、やわらかく、甘い匂いがして。
デリケートな彼の耳に触れている気分になった。
私にパンを渡すと、さっきのように本を読む姿勢に戻った彼だけれど、意識はこちらへ向けられているようだ。
このまましばらく、この感触を楽しんでいたいけれど、今この状態を見られているのは恥ずかしい。
ぱくり、と半分、もう一口で全てを収めてしまうと、彼がまた、笑う気配がした。
「もうひとつ、いります?」
驚いて、上げた視線が、彼の視線と絡まって。
私は、ほんのり甘い恋の予感を感じた。
家に帰ったら、ちょっといいコーヒーを淹れよう。
この胸に芽生えてしまった甘さを流すような、苦めのやつを。
そして、この一目ぼれみたいな恋を、小さく甘いクリームパンみたいな思い出にしよう。