恋する耳たぶ
「今日の店、ここからちょっと歩くんだ」
私を見ないままで言って、匡さんは私に背を向けた。
「そろそろ予約してた時間になるから……」
「……あ……」
違うの! そうじゃなくって!
「行こうか」
だめだめ!行っちゃ、ダメ〜!!
心の中で叫んだのと、歩き出そうとした匡さんのジャケットを掴んだのは、ほとんど同時だった。
匡さんが足を止めたのにほっとした話は、沸騰しそうなくらいに熱い顔で下を向いたまま、どうにか声を絞り出した。
「……は……はい」
「……え?」
さっき私を見つけた時よりもきょとん、とした驚き顔で振り返った匡さんと目を合わせるために、えいやっと勇気を振り絞って顔を上げる。
「……します」
「え?するって……なにを……?」
本当に、わからない、というように問い返す鈍い匡さん。
全くもう、女の子に何を言わすのだ!
恥ずかしくって仕方ないけれど、私の心はもうずっと前から決まっていたから。