恋する耳たぶ
鈍い匡さんにもちゃんと伝わるように、私はぎゅっとジャケットを掴んだ手に力をこめ、はっきりと大きな声で宣言した。
「します、結婚!したいです!私、私……匡さんのことが大好きだから!だからっ」
ぽかん、と口を開けた匡さんは、次の瞬間、真っ赤になって私の言葉をかき消すように両手を振った。
「紬未ちゃん、声!声大きいって!」
匡さんに言われて口元を押さえると、周囲から痛いほど降り注ぐ視線を感じた。
見渡さなくてもわかってしまう。
きっと、私が大声で注目を浴びてしまっている……
人生最大のやらかした感に頭が真っ白になった私の耳に、ピュウッとどこからか、はやぢたてるような口笛が聞こえた。
「いいぞ!」
「やるな~!」
「おめでとう!」
かけられる見知らぬ人々の声は好意的なものだったけれど、恥ずかしいこと、この上ない。
両手で顔を覆った私を隠すように抱きかかえて、匡さんが歩き出す。