恋する耳たぶ

「じゃあ、何があったんだよ?おまえがあんなことしてんの、初めて見たぞ」
「……そうですか?」
「そうだよ!この俺の結婚報告の時にさえ、顔色ひとつ変えなかった、おまえが」
「猪熊さんの結婚は、何か月も前から予想できていたことだからです。英美里さんと付き合い始めてからずっと結婚するって言ってたじゃないですか」
「それはそうだろうが!あんなイイ女、他にいないしな」
「あー、ハイハイ」

5年前、猪熊さんと結婚した英美里さんは、なかなかの美人で、優しく気のつく、とても素敵な女性だ。

けれど、それをそのまま猪熊さんの前で言ってしまうと、ちょっとめんどくさいことになるので、俺は大抵こうやって適当に流すことにしている。

「そろそろ出ないと、遅れちゃいますね」

自動販売機の隣に設置されているゴミ箱に、飲み終わったコーヒー缶を放りこんで、ごく自然に休憩スペースを後にしようと猪熊さんに背をむけた瞬間。

ガバッとタックルするような勢いで、猪熊さんが俺の腹に腕を回した。


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