恋する耳たぶ

「なっ!」

抵抗する隙もあればこそ、週3の筋トレをかかさずこなしている猪熊さんの反射神経は、生まれてこのかた積極的に運動なぞしたことのない俺よりもはるか高みにあり……

「わひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

最大の急所である脇腹をとられてしまった俺は、第三者には聞かれたくない間抜けな声を上げた。

「あいかわらず、くすぐりに弱いなぁ、おまえ」
「ちょ、ひゃっ!うひゃひゃひゃひゃ」

そう、俺は無類のくすぐったがりで、首、脇の下、足の裏、ひざ裏……

一般的に知られている、くすぐり急所の全てに自分でもびっくりするくらい反応してしまう。

中でも脇腹はひどく過敏で、その昔ひょんなことから、このことを知った猪熊さんは、時折、思い出したかのように、こんな攻撃をしてきたりするのだ。

「くひゃっ!やめ、あははははは!」

意外に繊細な動きをする太い指に文字通り踊らされ、コントロールを失った俺の体は勝手に動き、猪熊さんから離れようと腕を振り上げたはずみに、ポケットからスマホが落ちた。


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