恋する耳たぶ
とりあえず、ドリンクといくつかの料理を頼んでみたけれど、紬未ちゃんはやっぱり暗い顔。
こうなると、俺までちょっと不安になってくる。
もしかして、昨日のこと?
あの時はOKしてくれたけど、今日になって、考えてみたら、やっぱり無理……とか?
運ばれてきたビールのグラスを掴んだ手が、妙に強張る。
そう言われたら俺は……俺は、なんて答えればいいんだろう?
考えたくない状況をシュミレーションしていると、黙りこくっていた紬未ちゃんが、顔を上げてこっちを見た。
「…………匡さん」
しかし、まだ表情は固い……固すぎる。
昨日の親密な空気は、一体どこにいったのか。
まるで、敵を見るような顔で、何度もためらうように唇を開け閉めして、ようやく切り出したのは、なんとも不思議な話題だった。
「あの、お父さん……入院しているって言ってましたよね」
「え?……ああ、うん」