恋する耳たぶ
田舎の父が倒れたと、連絡を受けたのが、おとといの夜。
実家のある地方は、空港から大変に遠く、新幹線の停まる駅へ行くのにも、数時間を要する。
唯一の移動手段と言ってもいいのが、高速バス。
電車を乗り継いで行けなくもないが、バス停の方が実家から近いのだ。
前日へと日付が変わろうという時間だったけれど、まだ空席があって良かった。
地元を出て、10年近く。
親孝行な息子とは言えないけれど、親の死に目にも会えない、などという事態は、できるだけ避けたいものだ。
まあ、兄からの連絡からすると、今回はそれほど深刻な状態ではなさそうだし、案外、元気だったりするんじゃないかと思っているけれど。
やって来たバスに乗り込み、指定された席を見つけると、既に隣には先客があった。
これまでにも、何度か帰省の度に高速バスを利用していたが、いつも隣はオッサンが多かった。
たまに同世代や年下のこともあったが、今回は初めての女性。
マスクをし、顔の大部分が隠れているけれど、服装からして、母親世代……ではない。