恋する耳たぶ
これが普通の、例えば食事している最中の和やかな雰囲気の中で切り出された言葉なら、俺も特に不思議には思わない。
けれど、会ってからいつもふんわりした雰囲気で笑っていた紬未ちゃんが、この固い雰囲気、固い表情で切り出す話題が、俺の親父のこと……?
何がなんだかわからないが、2人して、黙りこくっているよりはいい。
俺は努めて平静を装って、会話を広げることにした。
「最初に会った時だよね、その話したの」
「……はい」
「よく覚えてたね」
何かをためらうようにした後、コクン、と頷く、紬未ちゃん。
なんだろう?
結婚、と言われて、俺の家族のことが気になったのだろうか?
「心配してくれて、ありがとう。でも、ただの骨折だから大丈夫なんだ。折れたのは、それほど大きな骨でもなかったみたいだしね。随分前に退院して、今はもう元気に店番してるって聞いたよ」
俺が言うのを聞いた紬未ちゃんは、なんだか拍子抜けって感じの顔になってつぶやいた。
「そう……ですか……よかった、です」