恋のはじまりは突然に
「テレビでも見てりゃ良かったのに」

その声と共にリビングにやってきた蓮司さんは黒と紺のチェックのパジャマを着てタオルを首からかけていた。

さっきまではワックスで固めていた髪が、今は前髪が垂れて、更に色気が増していた。

「悪りぃな、それしかパジャマなかったからよ」
「い、いえ……」
「あー、ドライヤーの場所教えてなかったな。こっち来い」

洗面所に連れて来られると蓮司さんは慣れた手付きでドライヤーを出しコンセントを挿して準備をした。

「ん、ここ立ってジッとしてろ」
「え?私、自分で……!」

蓮司さんが手にしたドライヤーを奪おうと手を伸ばしたけれど、彼はそれを許してはくれなかった。

それどころか鏡越しに映る自分の姿
と蓮司さんの姿を見て、バクバクと心臓が音を立てた。

こ、こんな風に男の人に髪を乾かしてもらうなんて初めてのことで、どこに目を向けていいのやら分からない。

ただ一つ分かることは……きっと、希望ちゃんにもやっていたんだろうなって……それくらい彼の手ぐしは気持ちが良かった。
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