恋のはじまりは突然に
「いらっしゃいませ」

女性店員さんの声と共に店内へと足を踏み入れた。

「一名様ですか?」
「はい」
「カウンター席でよろしいですか?」
「はい。出来たら、ここの端の席が良いのですが」
「かしこまりました、どうぞ」

普段自分で席を決めたりしないけど、今日だけは奥の席に行きたくなくて、初めて席を指定してしまった。

だけど快く端の席にしてくれて、私は席に着くと同時にビールを頼んだ。

夕方6時。まだお客さんはチラホラしかいなくて、昨日のような賑わいはまったくなかった。

頼んだビールがすぐにテーブルへと運ばれてきて、とりあえず焼き鳥とだし巻き卵だけ注文した。

昨日奏多さんが注文していた、だし巻き卵が思いのほか美味しくて、また食べたくなってしまった。

お客さんが来るたびに、過剰に反応してしまう。もしかしたら、蓮司さんかもって思ってしまって。

でも、何人来店しても彼が来ることはなかった。
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