人魚姫の涙

「そうだったんだ。私のパパもね、海が大好きなの」

「そういえば、よく連れて行ってもらったよな~」

「パパったら、暇さえあれば海、海。って」

「夏になったら真っ黒だったもんな~。おじさん」


忙しい紗羅の父親が出張から帰ってくる度に、俺と母さん、紗羅を連れて近くの海によく遊びに行った。

母さんと紗羅の父親は昔からの友人らしく、こうやって家族ぐるみで仲が良かった。

父親がいなかった俺からすれば、紗羅の父親が父親代わりだった。


「俺、父さんがいなくて寂しいって思った事ないんだ。紗羅の父さんが父親みたいなもんだったから」


いつもお土産を買ってきてくれる、おじさん。

野球を教えてくれたのも、おじさん。

ダメな事は叱ってくれて、頑張った時は褒めてくれた。


まるで俺の事を本当の子供のように接してくれた。

だから、紗羅と離れるのはもちろん寂しかったけど、それと同じくらいおじさんと離れるのも寂しかった。

父親がいなくなるみたいで――。

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