人魚姫の涙
意味が分からないと思いながら、デスクの上に体を預ける。

すると、和志が講義室に入ってくる学生を見つめながらポツリと呟いた。


「そういえばさ、紗羅ちゃんもイタリアで大学生なんだろ?」

「あ~ミラノにあるって言ってたな」

「へぇ~、一度は言ってみたいね。ミラノの大学に通ってるなんて」

「だよな」


あの紗羅が大学生なんて、俄かに信じられない。

見た目は大人だけど、中身は中学生並みだ。

無邪気に走り回る姿からは、真面目に抗議を受けている姿なんて想像できない。


「じゃぁ、いつかは帰るんだ? イタリア」

「まぁ...…な」

「遠距離じゃん。カナリの」


その言葉に、思わず黙り込む。


そう。

最近俺が頭を悩ませている事。

それは、紗羅の帰国だ――。


「何か話し合ってるわけ? 今後の事について」

「いや」

「まぁ、紗羅ちゃんの事だから何も考えてなさそうだけどな~」

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