人魚姫の涙

そんな事を思いながら、ボーっと外を眺めていた。

季節が過ぎる事、少し怖くなっている。

俺達のこの先の事、不安ばかりだから。

同じ日本ならまだしも、紗羅はイタリアに帰ってしまう。

そうなれば、次いつ会えるかなんて分からない。

時差もあるから、連絡も頻繁にはできないだろうし――。


どうしたものか、と頭を抱える。

だけどそんな時、何の前触れもなく先程紗羅が入っていった扉が開いた。

反射的に顔を上げたが、目の前に見えた光景に息を飲む。


「――っ」


そこにいたのは、瞬きも忘れて魅入ってしまう程美しい人だった。

緩くまかれた、ふわふわの栗毛。

頭上には、キラキラと輝く大きなティアラ。

フワフワと綿菓子の様に大きく広がる真っ白なドレス。

そして、まるで花畑の様にそこに綺麗に縫いこまれた色とりどりの薔薇。


言葉を失うとは、この事だろう。

あまりの美しさに、声が出なかった。


いや、出したくなかった。

なんだか夢から覚めてしまう気がして。
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