人魚姫の涙
和志の目線を追うように周りを見ると、何人か固まった女子がヒソヒソと何か話しながらこちらを見ていた。

その様子を訝し気に見つめながら、口を開く。


「あれ、何してんの」

「本当、鈍いよな~お前って」

「は?」

「お前と話したくて、ウズウズしてんだよ。あの子達は」


そう言って、ニヤニヤと悪そうな顔して笑う和志。

そして、ベンチに座っていた俺の隣にストンと腰を下ろした。


「俺だって、この前女の子に呼び出されたから告白かと思ったら『成也くんと友達になりたいんだけど、取り持ってくれない?』だぞ?  俺はピエロかよ!」


俺を挟むように同じようにしてベンチに腰掛けた雅樹が俺の顔を睨みつける。

うん。

コイツは昔から、だいたいこんな役回りだよな。


「学校で噂になってるぞ、絶世の美男美女カップルって」

「絶世って……」

「高嶺の花同士が付き合ってるんだ。そりゃ、そう言われるのは当たり前だろ」

「みんな暇なんだな」


苦笑いの俺の顔を見て不敵な笑みを見せた和志だが、俺の肩をポンっと叩いて立ち上がった。


「まぁ、ショーの時分かるだろ」

「何が?」

「それは、お楽しみ」

「じゃ~な~成也。ステージで転ぶなよ~」


意味深な言葉と笑みを残して、和志と雅樹は人混みの中に消えて行った。
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