人魚姫の涙



「紗羅ちゃん大丈夫? きつくない?」


鏡の前でドレスの紐を閉める塩谷さんが、私の顔を覗き込んで微笑んだ。


「大丈夫だよ。それより、薔薇の色変えたんだね」

「うん。そっちの方が、紗羅ちゃんに合うと思って」


少し頬を赤くした塩谷さんが、鏡越しに私に微笑みかけた。


「それに、私の目標の星野悠真さんってデザイナーさんもね、始めて世に出したドレスは青薔薇がついてたの」

「星野悠真?」

「知らないの? 今世界的に有名なデザイナーさんで、エデンのブランドの創立者」

「う~ん。知らない」

「うっそ、この前もテレビに出てたんだよ?」


私の答えが予想外だったのか、驚いたように目を丸くする塩谷さん。

そんなに有名な人なのかな――。


昨日見たテレビを思い出しながら、自分の着ているドレスを見下ろす。

この前着た時は色とりどりの薔薇がドレスに咲き乱れていたのに、今は目の覚める様な真っ青な薔薇のみが縫い付けられている。

青の薔薇――。

たしか、花言葉は『奇跡』


「紗羅ちゃんは、ハーフかクオーターなの?」


髪についている真っ青な薔薇をいじっていたら、塩谷さんが私の目を見て訪ねてきた 。
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