人魚姫の涙
「その時はね、別に何とも思わなかったの。でも私、大学で遺伝子工学の勉強をしてるの」
「遺伝子……」
「どうしてこの分野を選んだのかって、よく周りから聞かれてた」
「うん」
「実は、昔からどこか胸につっかえていた事があったの。何度も不思議に思った事。それが理由でこの分野を専攻したの」
聞きたくないのに、聞いてしまう。
何かが終わると心が警告しているのに、俺の口は開く。
「理由って……?」
「――…私、ママと一緒に写っている写真がないの。私を産んで、しばらくして事故にあったって聞いてたけど……。普通あるでしょう? 産まれた子供と一緒に写っている写真」
そう言う紗羅の言葉は悲痛にも思えた。
だけど、その言葉に俺も違和感を覚える。
どうして写真がないのか。
初めて生まれた子供なら、間違いなく1枚くらいあるはずだ。
それがないという事は、一体――…。