人魚姫の涙
いつになく冷静な紗羅が、ゆっくりと俺から視線をずらした。

長い睫毛が、月明りに照らされて頬に影を作る。


「本人たちにしか分からないよ」

「――」

「私達がどうして産まれたのか、どうして別々に育てられたのか」

「――」

「だけど、私達には知る権利がある」


そう言って、ゆっくりと視線をドアの方に向けた紗羅。

つられるようにして、部屋のドアを見つめる。

もちろんの事閉まっていて、そこには何もない。

だけど。


「聞いてるんでしょう?」


静かな空間に紗羅の声が響く。

え? と思って、再び紗羅に視線を向けるが、紗羅の瞳は部屋のドアだけを見つめていた。

すると、それまでシンと静まり返っていた部屋に僅かに衣擦れの音が聞こえた。

そして、それと同時に、俺の部屋のドアはゆっくりと開いた。


現れた姿に、目を見開く。

だけど、紗羅は何もかも分かっていた様子で口を開いた。




「――やっと会えたね。ママ」

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