人魚姫の涙
世界が一瞬動きを止めた。

『ママ』と言った紗羅の言葉が落ちて消えた。

俺達を見つめるその瞳を見返す。

今日までずっと変わらず俺の側にいてくれた人――。


「……母さん」


扉の向こうにいたのは、悲しそうな顔をして立つ母さんだった。

何故そこにいるのか。

どこから話を聞いていたのか。

頭の中が更にパニックになって、何も考えられなくなる。


「成也」


いつもと同じ声で俺を呼ぶ。

今までと変わらないはずの母さんなのに。

紗羅に見せられた、大学時代の母さんの顔がちらつく。

紗羅とそっくりの顔。

俺は思わず目を逸らした――。


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