人魚姫の涙
「おばさん」
「紗羅ちゃん」
パタンと静かにドアを閉めて、ゆっくりと入ってきた母さん。
手を握る俺達を見て、僅かに顔を歪めた。
それでも、紗羅は俺の手を離さず真っ直ぐに言葉を落とす。
「ずっと、私達を騙していたの?」
微かに震える紗羅の声。
怒りなのか。
悲しみなのか。
不安なのか。
分からない。
「ごめんなさい」
そして、また、母さんの声も震えていた。
「本当の事を教えて」
ギュッと俺の手を掴んだまま、そう言う紗羅。
それでも母さんは黙っていて、部屋の中は重苦しい雰囲気になっていた。
だから、時間を進めるように声を上げる。
「母さん」
「――」
「俺も、本当の事が聞きたい」
本心だった。