人魚姫の涙
優しく微笑んだおじさんの笑顔が、その言葉が、なんだか切なくて思わず泣きそうになってしまった。
紗羅と同じで、おじさんとの遠い日の思い出は美しいものしか残っていない。
一緒に花火をした事や、海で泳いだ事、ドライブに連れて行ってもらった事。
ぼんやりと霞んでしまっている思い出ばかりだけど、今でも輝いている。
18年ぶりの再会。
本来なら喜ぶべきもののはずなのに、こんなにも切なさが伸びている。
再び静まり返ってしまった部屋。
紗羅は変わらず、俺の手をギュッと握っている。
そして、瞬きもせず、おじさんと母さんを見つめている。
その眼差しを追うように俺も伏せていた瞳を持ち上げて、言葉を落とした。
「話してほしい」
「――」
「俺達の事」
知りたい。
知りたくない。
知りたい。
矛盾した気持ちが心の中を巡る。
でも、もう戻れない。
運命の歯車は動き出してしまったのだから。