人魚姫の涙

「桜は大悟と結婚する事になったんだ」


静かな部屋に、囁くような、おじさんの声が響く。

その言葉が理解出来なくて眉根を寄せる。


「待ってよ。意味が分からない。おじさんと、母さんは付き合ってたんだろ? なのに、なんで」

「大悟の両親の会社と、桜の両親の会社は取引相手同士だった」

「え?」

「大悟の両親は大手企業の社長だった。桜の両親は小さな子会社を経営していた。そして大悟の両親の会社は、桜の両親にとって1番ともいえるほどの取引先だったんだ」

「それが、何だっていうんだよ……」


意味が分からないと首を振る。

だけど、何も言わずに俺を真っ直ぐに見つめるおじさんの瞳を見て、まさかと思う。


だけど、そんな事現実に起こりうるのだろうか。

そんな、ドラマの中だけの話みたいな事が――。

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