人魚姫の涙
「政略……結婚?」


半信半疑でそう言った俺の言葉に、母さんは同意するように頷いた。


「お父さんに言われたの、大悟と結婚しなさいって」


母さんが今にも消えそうな声で、そう言った。

その瞬間、カッと頭に血が上る。


「そんなの、断れよ!」

「成也くん、時代が違うんだ。私達の時代は、親の言う事は絶対だった。ましてや、桜の両親の会社はその時経営不振だった。大手企業の社長からの申し出を断る事なんて出来なかった」

「申し出?」

「あぁ、大悟の両親から言ってきたそうだ。息子と桜を結婚させたいと」

「――」

「それを承諾してくれたら、今抱えている負債を肩代わりするとも」


眩暈がした。

意味が分からない。

だって父さんは、おじさんと母さんが付き合っている事を知っているはずだろ?

それに、まるで子供を借金のカタに売るような話。

そんな普通じゃない事が、まかり通っていたのか?
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