人魚姫の涙
信じられないと言葉を無くす俺達に、おじさんは辛そうに顔を歪めた。


「大悟に言われたんだ。自分もずっと桜が好きだったと」

「嘘だろ……」

「ずっとずっと、初めて会った時から好きだったんだと。俺と桜が付き合っている時も、ずっと」


それは、自分の欲求のために友達を裏切り、権力を利用したという事か――?


「どうする事もできなかった。まだ子供だった私達には、成す術がなかった」

「――」

「もちろん、私の両親も初めは断るつもりだったわ。でも、家族や従業員を路頭に迷わせる事は出来なかった。私も両親のその思いは分かっていたの。だから、こうするしかないと思った」


涙を浮かべる母さんは、膝の上でギュッと拳を握りって震える声でそう言った。

その姿に、俺の手を握る紗羅の手が僅かに震えた。
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