人魚姫の涙
「私達は別れた後も大悟の目を盗んでは会っていた。どうしても忘れられなかった。でも、こんな事いつかは止めなければと思っていた。だから最後に……最後に今まで以上に愛し合ったんだ」


苦しそうに、悲しそうに、そう話すおじさん。

母さんもまた、唇を噛んで俯いていた。

そして、ゆっくりと今度は母さんが話し出した。


「彼との最後の夜のその日、私は大悟にも愛されたの。子供が欲しいとずっと強く望んでいた、大悟に」


ギュッと手を強く握り、俯く母さん。

眩暈がしそうな禁忌の物語に、これが現実に起こった事なのか分からなくなる。

そして、最大の禁忌の先に起こった悲劇がそこにあった。


「――…そして、妊娠したの」


母さんの妊娠。

幸せだった?

嬉しかった?

悲しかった?
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