人魚姫の涙
これほど、夢であってほしいと思った事はない。
これほど、間違いであってほしいと思った事はない。
これほど、心が乱れた事はない。
「おばさんが……私のママ」
痛いほどの静寂の中、紗羅の擦れた声が聞こえた。
隣に座る紗羅は俺と同様、心の中が嵐の様に乱れているのが分かる。
でも、真っ青な瞳だけは、真っ直ぐに俺の母さんを見つめていた。
じっと、見つめ合う2人。
そして、紗羅の言葉に同意するように、母さんはコクリと頷いた。
それと同時に、紗羅の瞳から一筋だけ涙が零れた。
悲しみの涙?
嬉しさの涙?
でもきっと、紗羅にも分からないだろう。
「――…おじさんは、俺の父親なの?」
小さくポツリと呟くと、みんなの視線が俺に向いた。
2人の話を聞いて思った事。
俺の父親は?
おじさんか、友人を裏切った男か――。