人魚姫の涙
「――父さん……」

「あなたは、大悟の子供よ」


母さんはそう言って、優しく俺の頬に手を添えた。

ビクリと体を震わせて顔を上げれば、そこには瞳に涙を浮かべた母さんがいた。


ずっとずっと知りたかった父親。

何度、子供の頃に母さんに話してと、ねだっただろう。

だけど、その度に母さんが悲しそうに笑うから、子供心なりに聞いてはいけないものだと思っていた。

だから、俺は父親がどんな人で、母さんとどうやって結ばれて、どうやって死んだのか詳しくしらない。

ましてや、写真すら見た事がなくて、それが当たり前だと思っていた。

だけど、今になって思う。

きっと、言えなかったんだ、こんな事――。


グッと唇を噛み締めて、再び写真に視線を落とす。

夢にまで見た父親。

会いたくて、知りたくて、欲しくて、欲しくて、堪らなかった父親。

だけど、そこまで望んだ父親は裏切り者だった――。
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