人魚姫の涙
「その時、おばさんは妊娠してたの?」


震える声でそう話す紗羅。

きっと、おじさんのこんな姿を見て動揺しているのだろう。

それでも、自分達の過去を知ろうと必死に声を上げた。


「えぇ。妊娠6か月。でも、異父重複受精の事は誰にも話してなかったの」

「――」

「彼が隣に越してきて、嬉しかったと同時に不安だった。この事が知られる事が怖かったの」


そう言って、母子手帳をぎゅっと握りしめた母さん。

いつも強い母さんが、今はとても小さく見えた。


「でも、それからすぐだった。それがバレたのは」

「バレた?」

「えぇ。産婦人科に行った時に大悟に知られたの。ちょうど、先生にこの事は誰にも言わないでほしいと話している時に聞かれてしまった」


異父重複妊娠。

愛する人のお腹の中に他の男との子供がいる。

きっと狂ってしまいそうなほどの怒りだろう。

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