人魚姫の涙
「和志!」


車のドアに手をかけた和志に声をかける。

名前を呼ばれた和志は、顔だけ振り返って僅かに微笑んだ。


「――礼は聞き飽きた」


もう一度お礼を言おうとした俺の言葉を遮って、和志は再び車に乗って来た道を帰って行った。

和志の車が見えなくなるまで見送ってから、俺は家の中へと足を踏み入れた。


ここへは何度か和志に連れてきてもらった。

まさか、こんな形でここにもう一度来るなんてな。


「あれ? 和志くんは?」


風を通すためにリビングの窓を開けた所で、二階から紗羅が慌ただしく降りてきた。

そして、部屋の中を見渡して不思議そうに首を傾げる。


「帰ったよ」

「え!? お礼も言ってなかったのに!」

「お礼は聞き飽きたってさ」


ケラケラと笑って、紗羅をギュッと抱きしめる。

俺の腕の中で幸せそうに笑った紗羅だったけど、俺を見上げて首を傾げた。


「ねぇ、和志くんって何者なの?」

「え?」

「こんな立派な別荘持ってるなんて」


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