人魚姫の涙
あれから数日経ったが、あの事には互いに触れていない。

意図的に、話さないようにしている。

話さなければと分かっているのに、話した瞬間、この夢のような時間が終わりを告げる気がして踏み出せなかった。


まだ、夢を見ていたかった。

甘い世界の中で、溺れていたかった。

逃げているだけだと分かっていたけど、どうしても手放せなかった。

現実逃避ともとれるこの時間が、愛おしくて、切なくて、まるで一瞬の輝きの様に儚かった。



「星がいっぱぁ~い」

「すごいな」


夕食を終え、ロフトに上って天窓から星を眺めた。

零れ落ちそうな星を見ていると、紗羅が俺の胸に頭を乗せてきた。


「なんだか新婚さんみたい」


ふふふ。と楽しそうに笑う紗羅。

その言葉と姿に、笑みが零れる。

胸が一杯になって、愛おしさが増す。


「子供の頃に作った秘密基地みたいだな」

「こんな立派じゃなかったよ~」

「俺は自信作だったけど?」

「ふふ。そうだね」
< 261 / 344 >

この作品をシェア

pagetop