人魚姫の涙
ゴシゴシと真っ黒になったフライパンの汚れを落とす。

しばらく無心でフライパンと格闘していると、甘いシャンプーの匂いをまとった紗羅がやってきた。

その肌は薄らとピンク色に染まっていて、簡単に俺の理性を揺るがす。


「お風呂あがったよ! 成也も入れば?」

「あぁ。紗羅もちゃんと髪乾かせよ」

「うん! 今日の入浴剤ね、薔薇の香りにしてみたよ!」

「そっか」


まだ髪の濡れた紗羅に素っ気無くそう言って、視線をフライパンに戻す。

今にも襲い掛かってしまいそうな自分を必死に抑え込む。

すると、紗羅は不思議そうに首を傾げて俺の服の袖を引っ張った。


「成也?」

「ん?」

「どうかした?」

「いや?」

「顔赤いよ? 風邪?」


眉根を下げて俺の顔を覗き込んでくる、甘い瞳。

本当、この小悪魔には毎日悩まされている。

言うまでもなく、俺はそのままその唇を塞いだ――。







チャプン……。

甘い薔薇の香りがする風呂に身を沈める。

まるでホテルのように立派な風呂は紗羅のお気に入りだ。
< 267 / 344 >

この作品をシェア

pagetop