人魚姫の涙

そういえば紗羅が小さい頃、テレビで見た牛乳風呂に入りたいって駄々こねてたな。

あの時は、おじさんカナリ困ってたな~。


不意に思い出した懐かしい思い出に、胸がチクリと痛んだ。

母さんに、おじさん。

今頃、必死に俺達の事を探しているだろう。

一週間経って、少し落ち着いた頭で自分なりに告げられた真実を整理してみたけど、どれだけ考えても納得できるものではなかった。


相変らず、俺も紗羅もこの事については触れていない。

現実から目を逸らして、甘い夢の中に逃げている。


話さなければいけないのは分かっている。

これからの事考えなければ。

だけど、あと少しだけ。

あと少しだけ夢を見ていたかった。

この幸せな日々を手放したくなかった。
< 268 / 344 >

この作品をシェア

pagetop