人魚姫の涙
「――…うん。でもね、どっちが幸せなんだろうね」
「幸せ?」
「もし他人として生まれて恋人同士になったとしても、もしかして終わりが来るかもしれないでしょ? でも兄妹だったら、何があっても側にいられる。結ばれる事はないけど、無条件に側にいられる。それは、どっちが幸せなのかな」
小さな唇から紡ぎだされる言葉。
一つ一つが雨の様に、俺の心に染みこんでいく。
「分からない。でも、俺達は初めて会った時から他人だった」
「うん」
「今更、兄妹なんて思えない」
「――でも、兄妹なんだよ」
「――」
「変わらない事なんだよね」
悲しみが滲む瞳。
もしかしたら、紗羅は俺以上にこの現実をしっかり受け止めているのかもしれない。
分かっている。
分かっているけど。
認めたくなかった。
認めてしまえば、俺達に幸せなんてないんだから。
紗羅を守る事も、笑う事も、もうできなくなる。
だから、俺は今も子供みたいに足掻いている。