人魚姫の涙
「さ……ら?」
ユラユラと揺れる世界に、紗羅を見る。
真っ青な瞳で、俺を見つめ返している。
今、何て言った?
どういう事だ?
「大丈夫だよ。ただの睡眠薬だから」
そう言って、紗羅は先程まで俺が飲んでいた酒のグラスに視線を向けた。
その事が理解出来なくて、ただただ首を横に振る。
「睡眠……薬? どうし……て」
「きっと止められると思ったから。だから、こうするしかなかったの」
力が入らずに、ボスンとベットに倒れ込んだ俺を悲しそうな瞳で見つめる紗羅。
そんな中、今にも途切れそうな意識を必死に掴む。
ここで意識を手放すわけにはいかない。
それだけは、決してあってはならない。
「どうしても、誕生日だけは一緒に祝いたかったの」
「ど...…して。紗羅」
「大丈夫。目が覚めたら全部元通りだから」
「もと...…どおり?」
その言葉に、嫌な予感がする。
これから告げられる言葉に、終わりを感じる。
その証拠に、紗羅は今にも泣きそうな顔で微笑んで口を開いた。
「私達が出会う前に――」