人魚姫の涙
「ありがとう、成也。成也に出会えて、私とっても幸せだった」

「さら……頼む……行くな」

「大好きだよ。 ずっとずっと、大好きだよ」


俺の頬に手を添えてそう言った紗羅は、ニッコリと笑った。

その手は震えていて、今にも壊れてしまいそうだった。


「お願いだから...…行くな。俺には、お前が必要なんだ……」


今にも途切れそうな意識の中、必死に思いを伝える。

お願いだから、行かないでくれ。

紗羅のいない人生なんて、そんなものいらないんだ。

今の俺にとって、紗羅が全てなんだ。

何に変えても、側にいたいんだ。


「愛してるんだ……紗羅」


きっと、目が覚めたら。

紗羅はいない。
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