人魚姫の涙

「こっちおいで」


じっと俺を見つめる紗羅に、そう言う。

でも、紗羅は悲しそうに顔を横に振った。


「紗羅?」


その場から一歩も動かない紗羅に近寄ろうと足を前に出す。

すると、紗羅はギュッとワンピースを掴んで叫んだ。


「ダメだよ」


その声に反応して、足が動きを止める。

ダメ?

何がダメなんだ?

俺は紗羅の側に行きたいのに。

今すぐにでも抱きしめたいのに。


それなのに、足が地面に張り付いたように動かない。

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