人魚姫の涙

顔を歪める俺を見て、小さな紗羅は涙を浮かべながら海へゆっくり入っていった。

その姿に慌てて声を上げる。


「紗羅!!」


動きたいのに動けない。

追いかけたいのに追いかけられない。

そして、肩まで海に浸かった紗羅は俺に向かって囁いた。


「もう一緒にはいられない」


そしてそのまま、海の中へと消えて行った。

必死に追いかけようとするのに、体が思うように動いてくれない。

歯痒さの中で必死に紗羅の名前を呼ぶ。


行くな。

行くな。

行くな。


頼む。

行かないでくれ。
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