人魚姫の涙
それからの事はよく覚えていない。
色を失った世界に、一人置き去りになった世界に、俺は壊れた人形の様にピクリとも動けないでいた。
どれだけの時間が経って、どれだけの涙が流れたんだろう。
世界は明かりを無くして、星が煌めきだした頃。
ガチャリと扉が開く音がした。
パタパタと人が歩く音がする。
紗羅?
ぼんやりとした視界の中、リビングの扉に目を向けた。
擦りガラスに微かに映る、人影。
勢いよく開く扉。
そして、暗闇だった部屋に明かりが灯る。
「成也」
――現れたのは、真っ青な顔をした和志だった。