人魚姫の涙

それからの事はよく覚えていない。

色を失った世界に、一人置き去りになった世界に、俺は壊れた人形の様にピクリとも動けないでいた。


どれだけの時間が経って、どれだけの涙が流れたんだろう。

世界は明かりを無くして、星が煌めきだした頃。

ガチャリと扉が開く音がした。


パタパタと人が歩く音がする。


紗羅?


ぼんやりとした視界の中、リビングの扉に目を向けた。

擦りガラスに微かに映る、人影。

勢いよく開く扉。

そして、暗闇だった部屋に明かりが灯る。


「成也」


――現れたのは、真っ青な顔をした和志だった。
< 306 / 344 >

この作品をシェア

pagetop