人魚姫の涙
背を向けた後ろから、机に皿を置く音が聞こえた。

そして、静かに近寄ってきた母さんは俺を優しく抱きしめた。


「ごめんなさい」

「……どうして謝る。母さんのせいじゃないだろ」


母さんのせいじゃない。

おじさんのせいじゃない。


「俺のせいだから。俺が紗羅を好きになったから」

「違うわっ」


否定するように顔を横に振って、涙を流す母さん。

だけど、その表情すらも紗羅とかぶって胸がかきむしられる。
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