人魚姫の涙
「悪い……少し一人にさせて」

「――…分かったわ。でも、少しでもいいから食べなさい」

「分かった」


俺の返事を聞いて僅かに微笑んだ母さんは、また静かに部屋を後にした。

扉が閉まった事を確認して、重い体を持ち上げる。

フラフラと引き寄せられるように机に向かい、引き出しを開ける。

あの日、紗羅が置いていった手紙。

紗羅の字を見て、また胸が苦しくなった。

涙で湿った封筒を開け、手紙を取り出そうとした時。


「――ん?」


引き出しの奥に、見慣れない封筒が一つ見えた。

徐にそれを取り出して、目の前に掲げる。


なんだ?

コレ?


封を開けて、それを開いてみる。

すると、その中には一枚の便せんが入っていた。

そこには、紗羅の字で何かが書かれていた。

その瞬間、ドクンと心臓が大きく鳴る。

世界から音が無くなって、それしか見えなくなる。
< 315 / 344 >

この作品をシェア

pagetop