人魚姫の涙
「成也、もう授業終わったの?」
「――あぁ。それより、紗羅こっち」
なんだか今にも殴られそうだったので、紗羅の腕を引っ張って慌ててその場から退散した。
もちろん、怖くて顔なんて上げられなかった。
「成也どしたの?」
「あそこは危険だ」
「なんで?」
「――いいから。危険なんだ」
「なにが?」
「野獣が沢山いる」
「やじゅう?」
「とにかく行くぞ」
「ふふっ。成也歩くの早いよ~」
こっちの気も知らないで、クスクスと可笑しそうに笑う紗羅。
その姿を横目に、人込みが少ない所に向かう。
なんだか他の男に囲まれている紗羅を見て、モヤモヤしたから。
俺にとっては妹みたいな存在だからか分からないけど、守ってあげなければと本能的に思った。
それとも、自分だけに向けられているその笑顔が嬉しくて、子供みたいな独占欲が芽を出したのかもしれない。