人魚姫の涙
結局その後、ニヤニヤしている和志と、未だに夢見心地で紗羅を見つめる雅樹に別れを告げ、夕日を見たいという紗羅のリクエスト通り、いつもの堤防へ向かった――。
「やっぱり、ここの夕日が一番綺麗!」
嬉しそうに笑った紗羅は、足をブラブラと揺すりながらそう言った。
あの日と同じように、堤防に座り込んで夕日をじっと見つめる紗羅の横顔を隣に腰掛けながら盗み見る。
その姿は本当に綺麗で、1枚の絵のようだった。
「そういえばさ、初めて会った時何か歌ってたよな」
「歌ってた?」
「覚えてねーの? 家で会う前にここで俺に会ったの」
「え?――あぁ! あれ成也だったの!?」
一瞬、考え込むように空を見上げて考えていた紗羅の瞳が大きく見開かれる。
昔っから、やっぱりどこか抜けてるんだよな。
「あの日、知らない人がこっち向いて立ってたから、怖くて逃げたんだよ」
「俺は変質者か」
まぁ、じっと見ていたのは否定しないけど。
あまりの綺麗さに見惚れていたなんて口が裂けても言えない。