人魚姫の涙

「悪かったな、変質者で」


キャッキャとおかしそうに笑う紗羅に不貞腐れてそう言うと、嬉しそうに瞳を細めた。

真っ青な瞳がまるで海のように鮮やかで、宝石みたいだった。


じっと見つめられると恥ずかしくなって目を逸らす。

すると、拗ねたと勘違いしたのか、紗羅が空気を変えるように言葉を落とした。


「ごめんごめん。 えっと、歌だよね」


そう言うや否や、紗羅は前を向いて、すーっと大きく息を吸った。

そして次の瞬間、ゆっくりと瞳を閉じて口を開いた。


Non ti scordar di me
la vita mia legata e a te
Io tamo sempre piu
nel sogno mio rimani tu


まるでオルゴールの様に、どこまでも響く歌声。

あまりにも澄んだ声に、心が痺れて目が離せない。

波の音にゆっくりと溶けていく。


あの日見た、人魚姫がそこにいたーー。

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