人魚姫の涙
「今日はもう終わり？」


スポーツバックを担いだ友香がニッコリと微笑んで、そう問いかけてくる。

こんがりと焼けた肌が夏の日差しを浴びている。

ジャージの隙間から見える足や手は、筋肉がついて引き締まっている。


「あぁ。そっちは？　今からテニス？」

「うん。でもまだ少し時間あるんだ。どこかで話さない？」


その申し出に躊躇したが、顔に出さずに頷く。

一瞬、脳裏に紗羅の事が浮かんだが、ここ最近友香との時間を作ってあげてなかった事を思い出した。


友香と付き合って良かった事は、俺の事を束縛したり干渉したりしない事だ。

自分の時間が何よりも大切な俺は、毎日一緒にいるとか息苦しくて無理だ。

その点、友香はテニスという打ち込めるものもあるし、友人も多いから俺にベッタリって事はない。

程よい距離感で接しているからとても楽で、今まで付き合ってきた彼女達の中では一番良い関係を築けていると思う。


「あ～、じゃぁ学食に行くか」

「うん！」


元気に頷いた友香に微笑みかけて、手に持ってたスポーツバックを取る。

そんな動作１つにも、友香は頬を赤らめて照れくさそうに笑う。

そんな姿を、素直に可愛いと思う。
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